Vol.1

上南摩
2004年1月。
遠く日光の山々は真っ白な雪に覆われている。
真っ青な空を背景に男体、女峰をはじめとして日光連山が朝日を浴びてくっきりと浮かび上がっている。
その手前の、折り重なる低い山並みの中に「南摩」と云う所がある。
鹿沼市街より西へ十数キロ。
山間を流れる南摩川の上流域に開けた寒村である。
私がこの寒村に惹かれたのはつい最近、昨年の九月初め頃である。 それは、私の釣り仲間から聞いた話から始まった。
それからというもの、憑かれたように休みを利用してはお気に入りのカメラにモノクロフィルムを詰めて上南摩に通い始 めた。

山襞の合間を縫うように細く流れる南摩川。
川に沿って伸びる一本の県道を上がって行くと突然、二車線の広い道が途切れる。
上南摩小学校、お寺を通り過ぎて室瀬橋までこの狭い道が続く。
この橋を渡り道幅が広くなる。それと同時に異様な光景が目に飛び込んでくる。
のどかな山間の集落の田畑を貫く一本の道。
その両側には、「ダム建設反対」の幟旗が無数に立ち並び、所々には大きな建て看板が立っている。
看板のメッセージを横目に神社の脇を通り過ぎる。
小さな橋を渡ると急に道が狭くなり、鬱蒼とした杉林が両脇に迫ってくる。
そこは、ようやくトラック一台が通れるくらいの狭い道幅である。
「ここがダムサイトになる場所かな。」
などと思いながら対向車に注意して薄暗い杉林を通り過ぎる。
突然、目の前が開け、今度は山の異様さが目に飛び込んできた。