Vol.6

茅葺きの屋根はトタンで包まれ、所々が雨の流れに沿つて赤く錆び付いており風雪を感じさせる。
広い軒下の木の雨戸はぴったりと固く閉じ、歪んだガラスの入った引き戸の入り口には南京錠が掛けられ力一テンが閉まっていた。
”誰もいない。離村されたのだろう。
昨年の秋。
やはり、私は三脚にカメラを据えてこの場所に立っていた。
民家の広い庭は伸びた秋草に覆われて荒れたままだった。
民家の脇にある納屋の前には、この家の”おばあちやん”が使っていたのであろう、手押し車が荒れ放題の秋草の中に”ぽつん”と打ち捨てられていた。
何となく切ないこの光景に、私は数年前にこの世を去ったありし日の母の婆をこの手押し手にダプらせていたのかも知れない。



時折吹く乾いた山風が、裏木戸にある柿の木の色付いた葉っぱを”ひらひら”と舞い散らせていた。
その光景は、ファインダーを覗く私の目には綺麗でありながらも何故か寂しい切なさを感じてならなかった。
吹く風にどことなく春を感じさせる今、ファインダーに映される光と影は少しも変わってはいない。