老木の春(八重桜の想い出)(春)

「あの八重桜、どうしたかなぁ~。」「丁度今頃、咲き始めるんだよなぁ~。」そんなことを呟き、五月の風を受けながら車を走らせる。 周りの山々は淡い緑と言うよりも白に近い芽吹き色に輝き、斑に見える黒木山と眩しいくらいのコントラ…

早春(春)

自分の殻に「じぃ-っ」と閉じこもり長かった「冬」からの脱皮。なにもかもが歓喜にあふれ、躍動の季節の訪れである。「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 私の心は、早春の岸辺の枯れ葦の中にいる。「そぉ-っ」と竿を出す。…

床屋(夏)

暑っ~い。連日、35度を越すような猛暑。午前中に用事を済ませ、昼飯を食べ終えると窓を全開にした部屋でゴロリと横になる。籐の枕を置き、窓側に置いた扇風機を60分にセットする。暑い中でも心地好い風が眠気を誘う。 「おとうさん…

つららの想い出(冬)

(私が少年時代過ごした想い出深い我が家) 昔撮った写真のネガケースを整理していたら懐かしいネガが出てきた。ネガケースには昭和47年2月とある。 多分、一眼レフカメラアサヒペンタックスSPを買った翌年に自宅を撮った写真だと…

現像てんまつ記 その二(秋)

遠い地平線が消えて深々とした夜の闇に心休めるとき遥か雲海の上を音もなく流れ去る気流は弛みない宇宙の営みを続けています。満天の星を戴く果てしない光の海を豊かに流れ行く風に心を開けば・・・・・・・ 「ミスターロンリィー」この…

田植え(春)

半世紀以上前(昭和30年後半)の田植えの想い出。今では田植えも田植え機械で植える時代。この頃は、部落中の数人の大人の女性の手を借りて一植、一植手で植えていた。私が中学生の頃の田植えの想い出です。 父と母は耕耘機に乗って先…

春の雪(春)

夕刻より、雨が雪に変わった。 昨日まで、五月下旬の陽気であった。 庭の白い木蓮は、樹一杯に白い花を着け、青空に眩しいほどに輝いていた。 いつもは、庭にある枝垂れ桜が花をつける頃、桜も開花するのだが、今年は桜の方が早かった…

老木の嘆き(冬)

初冬の夕刻、故郷の思い出の川岸に立ってみた。川岸には、枝を落とした八重の老木が数本立っている。 昔、春には八重桜が爛漫と桜のトンネルを作っていた。しかし、今はその面影はなく数本の老木がひっそりと立っている。土手の向こうに…

囮(おとり)(秋)

「知花、こっちへ来てみろ。」「お父さん、何なの!」「あれ、見てみろ。」きのう、みかんを半分に割って置いた餌台に目白が2羽来て啄ばんでいる。おそらく”つがい”であろう。娘は起きたばかりで、目をこすりながら見ている。「あれっ…

太々神楽(その三) (春)

勇壮で迫力のある”岩戸の舞”を演じ終えたみっちゃんの父ちゃんは舞台の中央に立ち、激しい演技の為か肩で大きく息をして呼吸を整えている。タジカラオノミコトの面を付けた顔の顎からは汗が滴り落ちていた。第…