山の分校(秋)

妻と娘と連れ立って、秋の休日”もみじ狩り”に出かけた。
いつもの道は渋滞していたのでちょっと遠周りだが昔通った山際の裏道を行くことにした。

「お父さん、止めて!」 娘が突然、指をさして言った。
見ると楓やブナの秋色に彩られた山に囲まれるように、小学校の分校がひっそりと建っていた。

「ちょっと寄って行こう!」 車を降り校庭に入ってみた。
「いやぁ!懐かしいなぁ!」

私の子供の頃、通ったようなの校舎がそのまま残って居るではないか。
白いペンキで塗られた木の窓、そして何十年も風雨に耐えてきた杉の下見板は”深いしわ”のように年輪を浮き出させていた。

窓に寄って中を覗いて見る。
机と椅子だけが新しい物になっているが、その他は昔のままである。

校庭の隅に目をやると、白い百葉箱が見える。
その隣には、昔のままの運動具小屋があり、校舎の前には古びた朝礼台が置いてある。

「お父さん来て!」
娘の呼ぶ方へ行くと古びた木製の小さな机と椅子が置いてあった。

二人掛け用の机で、天板を上げると中が見えた。
私が小学生の頃使ったのと同じ机だろう。

娘が言った。
「お父さん、これ机なの!」
「お父さんやお母さんが小学生の頃はこの机で勉強したんだぞ!」

小さな椅子に座ってみる。
良く見ると薄汚れた机の天板には、小刀で掘り込んだ傷や落書きが何箇所も残っていた。

娘は興味深げに見ていた。
校庭の周りには太い桜の木が何本か立っている。

葉はほとんど落ちてしまい、梢には葉っぱが数枚ぶら下って風に揺れている。
この光景は、一瞬、三十数年前にタイムスリップしたかのようだった。

「もう帰ろう!」
娘に言いながら車に戻る。

振り返ると分校の裏山は、カエデやウルシの赤、ブナや蔦の黄、抜けるような真っ青な空、まるで山全体が燃えているかのようだった。

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