囮(おとり)(秋)

「知花、こっちへ来てみろ。」「お父さん、何なの!」「あれ、見てみろ。」きのう、みかんを半分に割って置いた餌台に目白が2羽来て啄ばんでいる。おそらく”つがい”であろう。娘は起きたばかりで、目をこすりながら見ている。「あれっ…

太々神楽(その三) (春)

勇壮で迫力のある”岩戸の舞”を演じ終えたみっちゃんの父ちゃんは舞台の中央に立ち、激しい演技の為か肩で大きく息をして呼吸を整えている。タジカラオノミコトの面を付けた顔の顎からは汗が滴り落ちていた。第…

太々神楽(二)(春)

”トッピィ~ヒャラリィ~、トッピィヒャロ””シャーン、シャシャ、シャーン””ドーン、ドド、ドーン”拝殿では太々神楽が既に始まっていた。神々を崇める笛や太鼓、鈴の音色が入り乱れ、鎮守の杜はその賑わいにすっぽりと包み込まれて…

太々神楽(一)(春)

今年は例年になく、遅い梅と早い桜の開花がほぼ一緒となり、三月下旬ごろから両方の花を一緒に楽しむ事が出来た。この時期外れの現象は、今地球規模で問題となっているCo2ガスによる地球温暖化現象の一つの現れなのかもしれない。いわ…

山の分校(秋)

妻と娘と連れ立って、秋の休日”もみじ狩り”に出かけた。いつもの道は渋滞していたのでちょっと遠周りだが昔通った山際の裏道を行くことにした。 「お父さん、止めて!」 娘が突然、指をさして言った。見ると楓やブナの秋色に彩られた…

桃源郷(春)

「梅、辛夷、木蓮、桃、桜・・・」今年は木々の装いが例年になく早い。庭の藤もたくさんの大きな蕾を付け始め今にも咲きそうである。 今年は草花や木々の花咲く時期が何処か狂っているようだ。何もかもが観測始まって以来の異常さである…

西洋式毛鉤釣(夏)

「ピュッ、ピュッ、ピュッ」湖に腰まで浸かりながら数人の若い釣グループがお揃いのベージュのハット。背中に英文字で書かれたお揃いのベージュのベストを着て懸命にロッドを振り弧を描きながらオレンジ色のラインを飛ばしている。オレン…

缶けり(春)

私の寝床に潜り込んでいた飼猫の”ミ-”ががさがさする音を聞き寝床からのっそりと抜け出して、台所へ駆けて行った。“ミ-”は妻の足元に纏わり付き、餌がほしいのか”ミ…

挨拶(冬)

初冬のある日曜日の午後。気分転換に、いつものお気に入りの雑木林へ。 枯れ葉の絨毯が敷かれている小径に入ると、木々の隙間からは初冬のやわらかい光が射し込んでいる。時折、梢を渡る風にクヌギの枯れ葉が数枚「はらはら」と私の肩に…

夢(冬)

年を重ねたせいか、寒い夜は夜具の中に湯たんぽを忍ばせている。数年前までは、電気毛布や電気あんかで温めていたが喉が渇いてしまい何故か体に合わないようだ。 昔懐かしい湯たんぽに替えてからは、柔らかな温もりからか寝苦しさを覚え…