現像てんまつ記 その一(夏)

「な、なに、これっ!」妻の甲高い声が台所から聞こえてくる。隣の部屋にいる私はその一声で一瞬焦った。「ドア開けんなよ!」私はすかさず言ってしまった。私は自分の部屋のドアを閉め雨戸も締め切って部屋の中を真っ暗にし、撮り終わっ…

半世紀(冬)

2000年師走。20世紀もあと残すところ数日。新世紀を迎えるための大掃除。別に新世紀まで持ち出す必要はないのだが。 掃除も一段落、私はし終えたばかりの部屋でコタツやぐらに座り込みコ-ヒ-を飲みながらテレビを何気なく見てい…

雲(春)

広いレンゲ畑に寝ころび、五月の風の薫りを楽しみながら空を見る。果てしない空に、何片かの雲が浮かんでいる。 私はまどろみながら雲に問いかける。 雲よ、お前はもくもくと湧いてきたかと思うと、いつの間にか消え去ってしまう。そし…

稲刈り(秋)

“ザック、ザック、ザック”黄金色に輝く稲田に、時折、腰に手をやりながら、ムックリと背を伸ばす。歯切れの良い音が止まる。「さぁ-て、一服するべぇ!」遠くから、手拭いで”ほっかぶり&#82…

遠い夏の日の想い出(夏)

子供たちの夏休みが終わろうとする頃、私は夢にうなされることがある。もう30数年前の事であるが、夢の中では鮮明に甦ってくる。それは、私が5,6年生の夏休みの終わりの頃の思い出である。 夏休みに入ると朝9時のころから夕方4時…

スケート靴(冬)

今年の冬は例年になく厳しい寒さで老体に堪える。正月気分にどっぷりと浸かっていた1月も来週は終盤週。 昨日、1月12日は旧暦でいう旧の正月でした。新暦の今は12月31日が大晦日でしたが旧暦では1月11日が大晦日。 親父とお…

雑木林を本にしてみました?

私の幼い頃の想い出を綴ったエッセイを本にしてみました。 エッセイ雑木林は2004年頃から書き始めました。内容を春の雑木林・夏の雑木林・秋の雑木林・冬の雑木林に分類してその季節ごとの懐かしい想い出を綴りました。この頃、画像…

春一番(春)

雑木林に入ると、透き通った空をバックに木々の梢の先っぽが赤みを帯び早春の明るい日差しを浴びて眩しく輝いている。近寄って細い梢の先を手に取ると、冬の間固く閉ざされていた芽に、いくらか膨らみが感じられる。しかし、梢を渡る風に…

イナゴ採り(秋)

「母ちゃん、明日学校でイナゴとりやんだから、袋、縫っといとこれね。」そう言いながらカバンを背負って急いで朝の集合場所へ駆けて行く。お寺の入り口の白門、何人か来ていた。「やっちゃんも明日いなごとりだんべぇ。」「袋縫ってもら…

家路(夏)

暑い日の休日、数年ぶりに路線バスに乗った。車内はがらがら数人乗客がいるだけで、空いている横掛けの椅子に座った。外の暑さをよそに、バスの中は冷房が効いていて、夏の暑さの疲れとバスのエンジン音もてつだってか、椅子に寄りかかる…