奥の細道

那須の黒ばねと云所に知人あれば、是より野越にかゝりて、直道をゆかんとす。遥に一村を見かけて行に、雨降日暮る。農夫の家に一夜をかりて、明れば又野中を行。そこに野飼の馬あり。 草刈おのこになげきよれば、野夫といへどもさすがに情しらぬには非ず。「いかゞすべきや。されども此野は縦横にわかれて、うゐうゐ敷旅人の道ふみたがえん、あやしう侍れば、此馬のとゞまる所にて馬を返し給へ」と、かし侍ぬちいさき者ふたり、馬の跡したひてはしる。独は小姫にて、名をかさねと云。聞なれぬ名のやさしかりければ、

かさねとは八重撫子の名成べし 曽良

頓て人里に至れば、あたひを鞍つぼに結付て、馬を返しぬ。

曽良随行日記

一 同三日 快晴。辰上尅玉入ヲ立。
鷹内ヘ二リ八丁。鷹内ヨリヤイタヘ壱リニ近シ。
ヤイタヨリ澤村ヘ壱リ。澤村ヨリ太田原ヘ二リ八丁。
太田原ヨリ黒羽根ヘ三リト云ドモ二リ余也。