「大日堂」

大谷川に沿ふて行くこと約半里、泣蟲山に面して小堂あり、之れ大日尊を安置せり、堂の左右に園池あり方五六間、花樹泉石安排極めて佳なり、都会の名園と雖も此の潔雅あらず、冷泉常に池底より湧出して、頗る清潔、水底の白礫皆敷ふべし、日光山に登る山岳皆雄峻奇峭の観にあらざるはなし、乃ち此の場盆景反って水珍賞すべし、泣蟲山は、楓樹甚だ多くして降霜の時に當りては、満山の錦雲、松翠杉青之に掩映し丹碧綺繍繪の如しと云ふ、明治天皇 中禪寺湖より下り給ふや、此の堂にて 憩あらせらる。

栃木縣聖蹟志より
※(明治九年六月明治天皇東北御巡幸より)