2013年8月アーカイブ

vol.03

南摩川沿いに少し行くと山の高台に離村した民家がある。
そこの庭先には、白い百葉箱が置いてある。
ここでは南摩ダム建設予定地上南摩地区の四季の気象観測データを採っているのであろう。
それはダム建設にはなくてはならない重要なデータであろうから。
この山の裾に一軒の民家がある。
いつもここを通るたびに一台の自転車が必ず置いてあった。
家主さんであろうか年老いた方が家の中や庭を片付けていた。
やはり、長年住み慣れた故郷には計り知れないほどの未練があるのであろう。
そこから100m程行くと丁字路があり、数件の民家が寄り添うように建っている。
そこには乗り合いバスの停留場があって、粟沢口と記されていた。
そして、ここには一つの寂れたベンチが置かれている。
風雨に晒されて錆付き、ペンキは剥げ落ちて壊れかけていた。
もう、このベンチには誰も座ることはないのであろう。
バス停の南摩川の向こう岸には、杉林で囲まれた大きなお屋敷がある。
まだ、住まわれている民家だが、すぐ目の前の山はすでに尾根付近まで木が倒されていて禿山となっている。
この日差しのない黒々とした谷には、倒木が無残に打ち捨てられている。
ごつごつとした岩が荒々しく剥き出された谷は、今にも崩れそうな様相である。
粟沢口の丁字路を右奥へと入ってみる。
薄暗い杉林の中を狭い道路が走り、所々に街灯が付いている。
途中、数軒の民家は離村され荒れた屋敷はすでに山に戻されている。
右側を見ると、山の奥の方はすでに階伐されて禿山となっている。
一番奥まで行ってみた。
去年の暮れに来たときには一番奥の民家は残っていたのだが ・ ・ ・ ・ 。
そこには、小さな沢のせせらぎに春の息吹を感じる柔らかな光がキラキラと輝いていた。

上南摩粟沢口付近 上南摩粟沢口付近
上南摩粟沢口付近 上南摩粟沢口付近
上南摩粟沢口付近 上南摩粟沢口付近
上南摩粟沢口付近 上南摩粟沢口付近

vol.02

右手の山は尾根近くまで木が倒され、山の斜面には切り株だけが整然と並んでいる。
岩が剥き出して荒れ果てた禿山は、まだ住んでいる民家の裏手まで迫り、今にも民家を飲み込もうとしている。
母屋と崩れかけた土蔵は、山に飲み込まれる前にダム建設の為に跡形もなく壊されてしまうのだろうか。
この民家の裏山には、ブルトーザーで削り取られた道が痛々しい傷跡を山肌にくっきりと残している。
 私は、禿山の中腹にある高台に登ってみた。
ブルトーザーで削り取られて造られた道は、かなりの急勾配である。
道の左側は、皆伐のために土石流でも起きたのか深く切れ込んだ谷となり、山の上の方まで筋となって続いていた。
高台はすべての木が切り倒され、僅か奥の方に数本の杉の木が残されて立っているだけである。
以前は、大きな木が生い茂り鬱蒼とした場所であったのだろう。
付近には伐採された枝が散乱し、切り株の間を縫うようにしてその場所に行ってみた。
そこには、迫りくる禿山を背にして僅かばかりの狭い原っぱがあり、数基の墓石が村を睨むようにひっそりと立っていた。
墓石の花台には、何時ごろ供えられたのか枯れきった花が数本刺されていた。
そして、切り残された数本の杉の木が申し訳なさそうに山風に揺れながら古い墓石に影を落としていた。

上南摩にて 上南摩にて
上南摩にて 上南摩にて
上南摩にて

vol.01

上南摩
2004年1月。
遠く日光の山々は真っ白な雪に覆われている。
真っ青な空を背景に男体、女峰をはじめとして日光連山が朝日を浴びてくっきりと浮かび上がっている。
その手前の、折り重なる低い山並みの中に「南摩」と云う所がある。
鹿沼市街より西へ十数キロ。
 山間を流れる南摩川の上流域に開けた寒村である。
 私がこの寒村に惹かれたのはつい最近、昨年の九月初め頃である。 それは、私の釣り仲間から聞いた話から始まった。
それからというもの、憑かれたように休みを利用してはお気に入りのカメラにモノクロフィルムを詰めて上南摩に通い始 めた。
山襞の合間を縫うように細く流れる南摩川。
川に沿って伸びる一本の県道を上がって行くと突然、二車線の広い道が途切れる。
上南摩小学校、お寺を通り過ぎて室瀬橋までこの狭い道が続く。
この橋を渡り道幅が広くなる。それと同時に異様な光景が目に飛び込んでくる。
のどかな山間の集落の田畑を貫く一本の道。
その両側には、「ダム建設反対」の幟旗が無数に立ち並び、所々には大きな建て看板が立っている。
看板のメッセージを横目に神社の脇を通り過ぎる。
小さな橋を渡ると急に道が狭くなり、鬱蒼とした杉林が両脇に迫ってくる。
そこは、ようやくトラック一台が通れるくらいの狭い道幅である。
 「ここがダムサイトになる場所かな。」
などと思いながら対向車に注意して薄暗い杉林を通り過ぎる。
 突然、目の前が開け、今度は山の異様さが目に飛び込んできた。

室瀬にて 室瀬にて
室瀬にて 室瀬にて