遠い夏の日の想い出(2)(夏)

久しぶりの青空!
庭の片隅の木陰に椅子を持ち出し、冷たいビ-ルを飲む。
久しぶりの暑さと疲れから酔いが回る。
麦わら帽子を顔に掛け、すこし微睡む。
蝉の忙しげな鳴き音が微睡みの中で、三十数年前のお寺の裏山で鳴く蝉と 交錯し、あっ-い夏の思い出を甦らせる。

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夏休みになるとお寺は朝はラジオ体操の会場であり、昼間は宿題の勉強の 教室になる。(?)
本堂から離れた所に小さな位牌堂がある。太い杉木立の中にあり、昼でも 薄暗く、そこに机を並べ数人で宿題をするのである。
真夏でもひんやりしていて勉強するには快適な場所であった。(?)
しかし今振り返ると、うるさい蝉時雨の中、どのように勉強したか覚えて おらず、夏の休みの終わりに慌てたことを考えると勉強した形跡はないの である。
ただ、家に居るよりもそこが涼しかったから、皆のたまり場となったので ある。
今のようにク-ラ-、扇風機など無い、当然生理的にも涼しい場所を見つ けて集まって来たのだろう。
でもあのときの蝉時雨はかなりうるさく、暑さが余計に増したようだった 勉強など出来たのだろうか。
昼頃になると、自転車の荷台に青い箱を乗せのぼりを立てて、"アイスキ ャンディ-屋"が鐘を鳴らしてやってくる。
たしか一本五円だったと思う。箱の小さな蓋から出すときの"ひんやり" した冷気に涼しさを感じ、あの割り箸までしゃぶった"つめた-ぃ"アイ スキャンディ-が懐かしい。
午後になると当然のことながら川の"カッパ"に変身するのである。

「おとうさん、ごは-ん」
耳元で娘の声がする。
微睡みの中の出来事を娘に話しても理解出来ないだろう。

"かなかなや 幼き日々の 杉木立ち" 詠み人 樋山