稲刈り(秋)

"ザック、ザック、ザック"
黄金色に輝く稲田に、時折、腰に手をやりながら、ムックリと背を伸ばす。
歯切れの良い音が止まる。
「さぁ-て、一服するべぇ!」
遠くから、手拭いで"ほぉかぶり"した父の声がする。
30年程前までは、何処にでもみられた手刈りの稲刈り風景である。
刈った稲束に座りながら、母が稲刈り鎌で器用に"柿"をむく。
魔法瓶に入ったお茶を飲みながら"さつまいも"の蒸かしたのをほおばる。
父は横を向いて、たばこの煙をくゆらせながら刈り取ったばかりの稲束を見ている。

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昭和40年頃の我が家の稲刈り (右は母、左は姉)

「今年もいい出来だなぁ!」
うれしそうに母と話している。
稲束の重さでそれが分かるのである。
私はといえば、「早く雨でも降んねいかなぁ-」
などと心の中で思っている。
雨が降れば、仕事が中止になるからである。
「さ-て、はじめっぺ!」
「俺は、"ハゼ掛け"作っから2人で早く刈っちゃえよ!」
「早く刈んねえと、おわんねえぞ!」
父が怒鳴る。
私は、高い青空を見上げながら痛い腰を上げ、1株、2株、3株と手でつかみながら稲刈りを始める。
3時の"こじはん"(3時の休み)の頃には稲刈りも終わり、今度は刈り取った稲束を、"ハゼ棒"
に掛ける準備である。
ハゼ掛けにした米は、自然乾燥なので炊きあがりが非常に美味しい。
母が稲束をまるき(藁で縛る)、私がそれを両手で抱えて"ハゼ掛け"まで運ぶ。
これも一仕事である。
「早く持ってこい!」
父が怒鳴る。
「おやじは、いいなぁ楽で!」などど思いながら稲束を運ぶ。
それを父は、1束、1束"ハゼ"に掛けてゆく。
西日が傾く頃には仕事も終わり、田んぼの黒い土に残った稲株が冷たそうに西日に輝いている。

そんな遠い昔の"稲刈り"を思い出す。