山歩き(春)

3月のはじめ、私のお気に入りの山に入った。
「おにぎり」二つと、熱いお茶の入った「サーモス」、そして少しばかりの「酒」をデイパックに突っ込む。
山といっても高い丘のような所で、全体が雑木で覆われている。

私は、簡単な足拵えをして雑木林に入る。
やわらかい日差しを浴びた雑木林は、一面落ち葉で覆われていた。
歩くたびに、「カサッ、カサッ」と、誰か後からついてくるかと思うほど、 静まりかえっている。

少し行くと、薄暗く鬱蒼とした杉林にぶっかる。
杉林の中を一本の細い道が延びている。
何時来ても、ここが一番私を「陰鬱」にさせる場所でもある。

「ポキッ」杉の枯れ枝を踏む音が杉林の中に響き、私は一瞬立ち止まり、薄暗い杉林を見渡す。
「.............」駆けて行きたいような気分である。
そんな「陰鬱」な場所を通り抜けると、明るく開けた雑木の林に出る。

ここからは緩い登りである。
山の斜面を巻く感じで、春の日差しをたっぷり受けながら山のてっぺんに着く。
この場所は、いつものお気に入りの場所で、デイパックからサーモスを取り出し、ちょっぴり酒を入れたカップに注ぎ込む。

朽ちかけたベンチに腰を下ろし、ゆっくりと「ホットティ-」を楽しむ
まわりを見渡すと、 雑木の木々の「さきっぽ」がなんとなく「赤っぽく」なっている。
それは、遅い春の訪れを告げているかのようでもある。

その梢の隙間から、遠く雪をかぶった日光連山が眩しく見える。
時折、木々の間を冷たい風が、「ヒュ-ッ」と、通り抜けていく。
もうすぐ、この山も「新芽」の淡い緑に覆われる。

そしたら又、ここへお茶を飲みに来よう。