茅葺き屋根の農家の裏山は、こんもりとした杉林と欅の雑木で覆われている。
昼でも薄暗い裏山は、夕刻ともなれば、入りがたい夕闇につつまれる。
欅の太い根元には、稲荷様が祀られている。
朽ちかけた、くすんだ赤の鳥居には、古い「しめなわ」が今でも切れそうに張られ、その奥には古びて壊れかかった「社」が置いてある。
いつも、一対の「こんこん様」がこちらを睨んでいる。
子供の頃は、そこへ行くのがとても怖かった。
「ゴォ-ッ」、「ゴォ-ッ」、「ゴォ-ッ」
夕暮れに、山から吹き下ろす風は、杉林を揺さぶる。
その裏山を揺さぶる風の音に、炭を入れた粗末な「やぐらこたつ」で、何もせず、ただ「じっ-」と背を丸めて入っている私。
子供の頃、父から聞いた「人さらい」の話しや、「戦争」の話しの怖さがその風の音とだぶる。
何とも云えぬ、「侘びしさ」、「寂しさ」、そして「怖さ」が今でも忘れられない。
そんな遠い昔の想い出が、晩冬の杉林の中を通り過ぎる風音と共に、私の脳裏をかすめていく。
コメント