老木の嘆き(冬)

初冬の夕刻、故郷の思い出の川岸に立ってみた。
川岸には、枝を落とした八重の老木が数本立っている。

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昔、春には八重桜が爛漫と桜のトンネルを作っていた。
しかし、今はその面影はなく数本の老木がひっそりと立っている。
土手の向こうには、川面を赤く染めたK川が夕日に光って、とうとうと流れている。

その奥の方には、荒れて浅くなってしまった昔の泳ぎ場が、ススキを透してキラキラと光っている。
向こう岸に広がっている雑木林は、赤や黄色の錦を着飾り、山の端に沈む夕日のスポットライトを浴び、まるで雑木林全体が赤々と燃えているかのようだ。

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しかし、山々の峰には送電線の鉄塔が何本となく立っていた。
それはまるで、故郷の山々を占領したかのように手を繋ぎあっている。
そして、垂れ下がった数本の電線が、夕日の逆光に鈍い光を放っていた。

その下には、山肌が削り取られ、芝生の"バンソウコウ"を貼り付けられたような山肌が痛ましく見えている。
これも、豊かなる文明への代償なのだろうか。
子供の頃、同じ川岸で胸に写したあの故郷の景色は何処へ行ってしまったのだろうか。

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「カサ、カサ、カサ」
ふと見ると、八重の老木の梢に今にも落ちそうな数枚の葉が風に鳴いている。
その音はまるでそれらを嘆き悲しんでいるかのように聞こえる。