雪(冬)

朝5時、外はまだ暗い。
始発電車の音がいつもと違うのに気付く。

「雪かな。・・・・・・・・」
なんとなく、遠くで聞こえるような、透き通った響きである。
「雪かもしれない。・・・・」
降る雪に音が吸収されてしまうからである。

私は寝床の中で"シ-ン"と静まり返った外の気配の中に雪の音を聞き取ろうとしている。
「たぶん雪だろう。・・・・」
温い寝床から手を伸ばし、「そ~っ」と雨戸を細めに開けてみる。
「やはり雪か。・・・・・・」

漆黒の世界から舞い降りる雪は、差し込む仄かな灯りに触れると大きな雪片となって
はらはらと落ちて来ては、銀色の絨毯に吸い込まれて行く。

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「ひゅ~っ、ひゅ~っ」
横殴りの風と雪に、田んぼの土手の枯れすすきが寒そうに鳴いていた。

スズメ達は、風に向かって飛び交いながら、雪に半分埋もれた枯れススキの中へ潜り込んで風を避け、寒そうに身を寄せ震えている。
低く垂れこめた鉛色の空からは容赦なく雪が降り注いで来た。

納屋の中では、手拭いで頬被りをした父が薪を割っている。
母はその薪を竈にくべながら湯を沸かしている。

雪を被った雑木林が、うっすらと湯気の向こうに見える。
私はその傍で、納屋の軒下に舞い落ちてくる雪が土間との境目に作った"白から黒へのグラデ-ション"を"じ~っ"と見ている。

時折。
「どどぉ~、どどど・どぉ~っ」と
急勾配の茅葺屋根に積もった雪が、重さに耐え切れずに落ちてゆく。


そんな昔の光景が、寝床の私の脳裏をかすめていく。
  "初雪や 遠き汽笛を 含みおり"         詠み人 樋山