渓釣り 秋(エッセイ)

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萩

物置を開けると、奥のほうから埃にまみれた釣竿が一本出てきた。
十数年も前に渓釣りをやっていた頃の愛用の4.5mの渓流竿だ。
布袋から出して伸ばしてみる。
手入れが良かったのか汚れは殆どない。
先調子の竿を振ってみる。
仕掛けはと云えば、だいぶ前に捨ててしまったようだ。
竿を大事そうに布袋に仕舞いながらあの頃の想い出が蘇る。

渓釣り 秋
午前4時。
夜明けまで1時間。
外は真っ暗、雨もぱらついている。
車の中で仮眠をとろうとしても眠れない。
今日は今年最後、納竿前の釣行である。
何故か興奮して眠れそうもない。
霧雨に濡れるフロントガラスをうつろに見つめながら
「今日は何処を攻めようか?」
などと考えている。
外は絶好のコンデションである。

やがて、霧の中に山の木々のシルエットが浮かび上がってきた。
用意を済ませていつもの"お気に入りの場所"へと向かう。
"ソォッ"と竿を出し、第一投!。
手応えがない。
続きざまに、第二投、第三投!.....。
「魚いないのかなぁ?」
いつもは第一投目で来るのだが。
つぎのポイントへと向かう。
「ここもだめかぁ。?」
先に人が入った様子もない。
「どうしたんだろう。?」
時間とともに焦りが出てくる。それから二時間.....。
ついに山女魚との出会いはなかった。
「またストレスがたまるなぁ」
などと思いながら瀬尻の目印を追う。
時折、秋めいた晩夏の日差しを横切る谷風が、薄暗い淵に色ずき始めた山桜の葉を落して去っていく。
仕掛けを巻き、竿を仕舞い、空の魚篭をぶら下げながら林道に出るために脇の藪に入る。
藪の中には、ピンクの花を零れんばかりに咲き誇っている萩が、行く手を遮っている。
それに混じって、野菊が数輪可憐な花を付け足元にひっそりと咲いている。
木々には、山芋の蔓が絡まりハ-ト型の葉っぱは黄色く色づき始めていた。
「もう、秋かぁ。魚ともお別れだなぁ。」
などと嘯きながら、来る秋の一コマを楽しんだ。
もうすぐ、山全体を錦に彩る憂いの秋がやって来る。
(秋の雑木林より)

野菊

※ 画像は写真ACより

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